サッと描けなきゃ意味がない!話題のタブレット開発までの道のり

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プロアマを問わず、デジタルでお絵かきするときに必要となるもの。それがペンタブレットです。中にはラフから仕上げまでマウスひとつで仕上げる猛者もいるようですが、多くの方はペンタブレットで絵を描いているのではないでしょうか。

 


所長「しかしこのペンタブ、思ったように線が引けなかったり、使い勝手が悪かったりして、かえってお絵かきがおっくうになってしまうこともあるんです。慣れるまでは付き合いづらいアイテムですよね」

 

 

株式会社サードウェーブデジノスに勤める林田奈美さんも、そんな「ペンタブあるある」を感じていたうちの一人。しかし、そんな経験を活かして8インチタブレットの「raytrektab DG-D08IWP」の開発へ乗り出したのです!

 


所長「お絵かき経験を活かして作られたタブレットとなると、現役イラストレーターとしても興味深い……!というわけで、今回は林田さんにじっくりとお話をうかがってきました」

 

 

お絵かきへのジレンマが商品開発へ結びついた

 

―今日はよろしくお願いします。まず、林田さんは現在どんなお仕事をされているんでしょうか?

 

 

オフィス向けからゲーミングPCまで様々なブランドのPCを販売しているんですが、その中の「raytrek(レイトレック)」というクリエイター向けブランドを担当しています。なのでタブレットだけが専門というわけではなく、映像編集や写真のレタッチをするPCにも広く関わっています。

 

 

―そうなのですね。もうずっと今のお仕事を続けていらっしゃるんでしょうか?

 

 

現在の担当になってからは3年ぐらいですね。最初は倉庫で物流の仕事をしていましたよ。そこから企画の部署に異動して、PCのパーツ調達などいろいろな業務を経験しました。

 

 

―「raytrektab DG-D08IWP」を着想したきっかけは?

 

 

私自身、昔から絵を描くことが好きでずっと続けているんです。プロになろうとか、そういうところまではいかないですが、趣味で落書きしたりペンタブを試したりしていて。

 

で、実際にペンタブで絵を描いてみると、目線に対して必ずしも手が同じように動くわけではないってことを強く感じたんです。画面はこっちなのに、手は別のところにあって、しかも手元を見ても描いている絵はなくて。そうすると、線がずれたり思うように描けなかったりするんですよね。

 

 

―すごく分かります……。ジレンマがありますよね。

 

 

気軽なお絵かきとは離れてしまいますよね。姿勢を正してと言ったら変かも知れないですが、「よし、絵を描くぞ!」って気持ちにまでならないと描けないので、「なんか違うな」って思っていたんです。

 

 

―パッと思いついて落書きするのとはちょっと違った気持ちですよね。

 

 

はい。それに、ちゃんとした液晶タブレットってけっこうなお値段なんです。プロでもないのに、そんなにお金を出してまで必要なのか、使いこなせるのかって足踏みしてしまうんですよね。

 

 

だから最初に8~10インチぐらいの小さいペン付きタブレットが登場したとき、「これはいいな」と思いました。趣味で使うのならPCのスペックもそこまで必要ないですし、手の届く値段だったので。思いついたらカバンから出してささっと描く、そんなメモ帳やノートでやっていたことがデジタルでできるならいいな、と。

 

 

―なるほど。確かにそのサイズなら、気楽に取り出して作業できますよね。

 

 

でもそれって、絵を描く人向けに売られていたものではなかったんです。例えばビジネスシーンで、PDFに楽に修正入れたりできます、という感じで売られていたものだったんですよ。だからお絵かきする人にはあまり知られなくて、その後そういった商品も出なくなってしまった。

 

「惜しい、もったいない」と思って、それならお絵かきする人に向けたものを作ろうかと考えるようになったのがきっかけです。もちろん新しいチャレンジだったので、すぐに開発に移れたわけではないですが。ひとつひとつハードルをクリアしながら、開発にこぎつけたって感じですね。

 

 

気軽に描けないと意味がない!サイズへのこだわり

―こだわりポイントは、やはりサイズ感にあるんでしょうか?

 

 

そうですね、サイズ感にはこだわりました。「小さすぎるんじゃないの?」という意見も確かに出たんですが、大きいサイズにするとそのぶんPCの性能も求められますし、液晶画面もいっそうきれいにしなきゃいけない。そうしているとどんどん値段が上がっていって、結果ふつうに液晶タブレットを買うのと変わらないことになるんです。それだと新しいチャレンジにはならないので、このサイズ感で決まったんですね。

 

小さいけれど、でも絵を描く機能はきちんとしているのもこだわりです。ペンにも方式の違いから何種類かあるんですが、今いちばん描きやすいとされている電磁誘導方式を採用しています。やっぱり小さいからこそ、気軽に描けないと意味がないんです。軽い気持ちで落書きやネームをやりたいのに、ペンの反応に気を使うのは矛盾があると思っていたので。

 

 

―非常になめらかで描きやすかったです。まるでスケッチブックのような感覚で驚きました。ペンの細さは、どのように?

 

 

小さいタブレットにつくペンは収納式のものが多いんですけど、収納式だと描きにくいなと思っていたんです。ゴルフで使う鉛筆、わかります?細くて短い本体の先っぽに、芯だけついている……それと似ているなって(笑)。今回、このペンは鉛筆と同じ太さなので、鉛筆キャップやクリップをつけて調節したりもできますよ。

 

 

―細すぎても持ちづらいですが、太すぎても調節できないですもんね。

 

 

そうですね、手に持ってしっくりくる感じを目指しました。鉛筆なら、ふだんのお絵かきでよく使われている太さだろうと思ったので。それにどうせカバンの中に入れて持ち運ぶなら、ペンが収納式である必要はあまり感じられなくて。スイッチなどはなしにして、鉛筆と同じ太さにしたんです。芯も全部で3種類あるので、好きな描き心地の芯を見つけてもらえればと。

 

 

手の届く値段設定も、まずは使ってもらうため

―私もさまざまなタブレットを使ってきましたが、「raytrektab DG-D08IWP」はお値段の面で従来の製品とひとケタ違うような……。

 

 

価格は、どうしても5万円というラインは切りたいなと思っていました。液晶タブレットの敷居を下げたい、という思いがまずありまして。例えばタブレットだけで10万円もしたら、そこからPCや付属品も買うとなるとさらにかかりますよね。そこに尻込みしてしまっている人って、多くいらっしゃるんだろうなと。

 

でも5万円以下であれば、買うことへのハードルはそこまで高くないだろうと思うんです。試してみてデジタルは合わないと分かったら、他のことに使ってもいいわけですし。ハードルを下げるためには、画面が小さくて値段も安くて、どこでも使えるという3つの要素が不可欠だと。

 

 

―価格を決めるとき、なにかイメージされていた点はあったんですか?

 

 

考えていたのは、高校生が夏休みいっぱいバイトしたら自分で買える金額。もしくはお家の方に 「これ欲しい」って言っても、まあ買ってもらえるぐらいの値段にしたいなと。その金額にはおさまるように設定できたので、よかったなと思っています。

 

 

―個人的には、「CLIP STUDIO PAINT DEBUT」(※)がバンドルされているところにひどく感動しました。このセットはお絵かきする人にとってかなりお得ですよね。

 

 

せっかく絵を描くタブレットなので、ソフトも絵を描く人に使ってほしいなと思いまして。セルシスさんにはかなり早い段階からお話をしていて、おもしろい商品だということでご協力いただけたんです。すぐにお絵かきが開始できますね。

 

※株式会社セルシスによるイラスト・マンガ・アニメ制作ソフト。

 

 

予想以上の仕上がりと反響

―たくさんのこだわりが盛り込まれていて、開発まで苦労されたんじゃないかと思うのですが。

 

 

そうですね、開発コストを抑えるのには苦労しました。金額もそうですし、基本設計などを一から作るのも相当なコストなので、できるだけ減らそうと。なので、raytrektab DG-D08IWPは同じような8インチのタブレットをベースに開発しています。そのためちょっと硬派なデザインになっていますね。

 

でもサンプル品ができあがってテストしてみたら「えっ、こんなレスポンスいいの!」って驚いたんです。それは開発途中でセンサーの性能が上がったからだったんですが、思っていたよりもずっと良い描き味で。この感触だったらイラッとこないし、紙に描くみたいな気軽さで描ける。本当にうれしかったですね。

 

 

―確かな手応えがあったわけですね。

 

 

その後、本格的に打ち出す前に「マンガを描く方がたくさんいるところで見てもらおう」と、東京ビッグサイトの同人誌即売会へ持っていったんです。事前告知などはしないで、当日に「今日は開発用のタブレットを持ってきました」とTwitterでつぶやいただけだったんですが、かなり反響がありまして。「Twitter見て来たんですけど、どれですか?」って言ってくださる方もいました。

 

そこで「これは描きやすい」って声をたくさんいただけたので、これはほんとに大丈夫そうだと。そのときにちょっと自信がついたというか、ああよかったなと感じられました。実際のプロモーションも、同人誌イベントに出たり店頭で描いてもらったりと、どんどん使ってもらう形で進めました。ありがたいことに工場での生産が追いつかなくなったこともありまして、うれしい悲鳴があがりました。

 

 

絵を描く人に寄り添うアイテムを目指して

―今後、挑戦していきたいことについてもお話をうかがいたいです。

 

 

まずは、このタブレットをより多くの方に使っていただきたいです。描き方にはそれぞれいろんなやり方があると思うんですが、絵を描く人の生活に溶け込んでいくようなアイテムにしたいですね。紙には紙の良さがあると思いますが、スケッチブックやノートのように気軽に使えるものになっていけば嬉しいです。

 

それに、デジタルになったからといって絵が上手くなるわけではないですよね。線の引き方など基本的なところで練習が必要なのはアナログのお絵かきと変わらないですし、加えてデジタル特有のテクニックもある。描けば描くほど上達するのは変わらないんです。気軽にさっと描けるツールで、お絵かきの時間を増やせたらいいなと思いますね。それに、デジタルなら失敗しちゃってもすぐに消せますし。

 

 

―そうなんですよね!アナログで描いていると、つい「元に戻す」ボタンを探しちゃいます。

 

 

ノートだとそうはいかないですよね。ピっと簡単に消せるので、どんどんお絵かきできる時間が増やせるかなと。寝っ転がったり、リラックスしながらでも絵が描けるので、いろんなシーンで使っていただきたいですね。

 

 

絵を描くことのすばらしさを思い出そう

開発に至る経緯から、こだわりポイントまで、絵を描く人でなければ感じられないようなエピソードをたくさん話していただきました。


所長「タブレットへのハードルを下げ、お絵かきの時間を増やすという考えは、非常にすばらしいと思いました。また、パッと思いついたものを家に帰ってからもう一度描こうとしてもなかなか難しいんですよね。なので、出先でサッと描きとめられるツールはとてもありがたいんです」

 

 

ツール開発の裏側を知ることができ、所長もいたく感動しているようです。「手が出ない」「使いにくい」などのハードルが連なって、好きだったお絵かきから遠ざかってしまってはもったいないですよね。開発に携わった方々の情熱は、絵を描くことの楽しさをもう一度思い出させてくれそうです。

 

 

取材協力

 

(写真右)
株式会社サードウェーブデジノス マーケティング本部BTO事業部
林田 奈美さん

 

 

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さとうむか

さとうむか

WEBライター・編集として奮闘するゆとり世代。気になったもの、おもしろそうなものを記事にしてお届けします。ジャンルはクリエイターさん向けのものから、生活・仕事・雑学などなど広くやっております。

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